年収700万円の細パパと都度の40代既婚PJの契約
出会い
本宮春美は、42歳の肌に少しずつ忍び寄る歳月の痕跡を鏡で見つめながら、今日もシュガーダディのアプリを開く。午前10時、主婦としての家事を終え、10歳の息子が学校へ行った後の静かな時間。夫は仕事で帰りが遅く、会話すらほとんどない。彼女の指が画面を滑らせ、プロフィールを更新する。「大人の関係、都度2万円」と短く書かれた自己紹介。お金が必要だ。息子の塾代、家のローン、そして彼女自身の小さな贅沢。かつて援助交際で稼いだ若き日の記憶が、今の彼女を支えている。
その頃、神宮寺元彦は、自営業の事務所でコーヒーを飲みながら同じアプリを眺めていた。48歳、年収720万円。離婚後は自由を謳歌しつつも、心のどこかにぽっかりと空いた穴を埋めるように、風俗や出会い系に手を伸ばしてきた。パパ活アプリは彼にとって「コスパの良い遊び場」だった。40代の女性なら相場が安く、割り切った関係が築ける。春美のプロフィールが目に留まったのは、そのシンプルで直球な文面だった。「都度2万円か、まあいいか」。彼はメッセージを送った。
初対面は、駅前の喫茶店。春美は清楚なワンピースをまとい、化粧で年齢を隠そうとしていた。元彦はスーツを着崩したラフな姿で現れ、彼女を一瞥して満足げに頷いた。「悪くない」。お互い言葉少なに条件を確認し、その日のうちにホテルへ向かった。行為の後、春美は2万円を受け取り、そそくさと帰り支度を始めた。元彦はベッドに寝転がったまま、「また会いたいな」と呟いた。春美は軽く笑って、「気が向いたらね」とだけ返した。
繰り返される刹那
元彦は春美に惹かれていた。彼女の物憂げな瞳と、どこか冷めた態度が逆に彼の興味を掻き立てた。2週間後、彼は再びメッセージを送り、春美もまた予定を空けた。同じホテル、同じ流れ。そしてまた2万円。だが今回は、元彦が「次はいつ会える?」と少し粘った。春美は曖昧に笑い、「予定が合えば」と返した。それでも、なぜか2週間おきに会うリズムが自然とできあがっていった。
春美にとって、元彦は「悪くない客」だった。時間に融通がきき、余計な詮索をせず、支払いも確実だ。だが、彼女の生活を支えるには到底足りない。息子の教育費は増える一方で、夫との関係は冷え切ったまま。毎日のようにアプリを開き、他の男を探す日々。50代の会社員、30代の独身男、時にはしつこく口説いてくる大学生まで。だが、継続的な関係を築ける相手はほとんどいない。単発の2万円が積み重なり、彼女の財布を薄く満たすだけだ。
一方、元彦は春美との時間を楽しんでいた。彼女との関係は、彼にとって「安くて質の良い娯楽」だったが、次第にそれ以上の何かを感じ始めていた。彼女の沈黙の中に漂う寂しさ、時折見せる儚い笑顔。それが彼の心に小さな引っかかりを残した。3ヶ月が経ち、彼は春美に「もっと会う頻度を増やさないか」と提案した。春美は一瞬迷ったが、「お金次第ね」と笑ってかわした。
終わりへのカウントダウン
ある日、元彦は春美に「今月は3万円でどうだ?」と持ちかけた。彼女は少し驚いたが、頷いた。それ以降、彼は少しずつ金額を上乗せし、春美もそれに応じるようになった。月に2回が3回になり、時には食事を共にする時間もできた。元彦は春美に「俺とだけ会えばいいだろ」と冗談めかして言ったが、春美は「生活があるから」とそっけなく返す。彼女にとって、元彦は「特別」ではなかった。ただの「良い客」でしかない。
だが、春美の心にも変化が芽生えていた。元彦との時間は、他の男たちとの刹那的な出会いとはどこか異なり、ほんの少しだけ温かかった。それでも、彼女はそれを認めるわけにはいかなかった。お金が全てだ。息子の未来が、彼女の生きる理由だった。
関係が3ヶ月を超えた頃、元彦は春美に本気で向き合おうとした。「俺、春美のこと好きかもしれない」。ホテルの一室で、彼は珍しく真剣な顔でそう言った。春美は一瞬言葉を失い、やがて小さく笑った。「そういうのは困るよ。私、結婚してるし」。元彦は黙り込み、彼女はいつものように2万円を受け取って部屋を出た。
その日を境に、彼からの連絡は途絶えた。
金色の刹那
春美は次の相手を探し始めた。
元彦は事務所近くの立ち飲み屋へ入り浸り、しばらく酒に溺れた。
「パパ活してる男って普通もっと金持ちだからな。都度2とかセコくてかっこわるいわ。年収2000万円3000万円あるような金持ちなら、こんな結末にはならなかったかもしれない。」
「パパ活する女の目にはお金だけが金色に見える。多く使える男がより金色に見える。」
酒を浴びながら彼の心は妬みと虚無感で満たされていた。
そして時が過ぎ
ある夜、元彦は酔った勢いで再びアプリを開いた。そこで見つけたのは、ハンドルネーム「コッコ」、31歳の女性だった。「都度2万円」。プロフィール写真はぼやけていたが、自己紹介に「色白、細身」とあった。あまり美人ではないかもしれないが、元彦の好みに合致していた。
コッコとの初対面は、春美との出会いと同じように淡々と進んだ。駅前の喫茶店で会い、ホテルへ向かい、2万円を渡す。彼女は確かに美人ではなかったが、色白で細身の体型は元彦の目を引いた。行為の後、コッコは無言で服を着て立ち去った。
「なんかこのパターン飽きたな」
「余計淋しいわ」
元彦はベッドに横たわり、「次は無いな」と呟いた。春美との思い出は薄れつつあったが、心のどこかで、金持ちの男たちへのひがみは消えなかった。
エピローグ
この物語は、余裕のあるパパ活男性と経済力の差に嫉妬を感じる元彦と、刹那的な関係を繰り返す春美が一瞬だけ交錯し、それぞれの道を歩む姿を描きました。お金と欲望が絡み合い、元彦の新たな出会いもまた、同じパターンを繰り返すだけなのかもしれません。彼の心に残るのは、満たされない想いと、彼の目からは金色に見えるお金持ちへの嫉妬だけです。
(完)
※この物語はフィクションであり、実在の人物や出来事とは一切関係ありません。